人が変化を恐れる理由……

「変化」という言葉は幅広い意味を持っていて、多くのことを言い表すのに使われます。引っ越しや転職、あるいは、家族の死などのつらい経験。そうしたできごとには「良いこと」と「悪いこと」の両方があり、それぞれ内容は違いますが、毎日の生活のあり方を調整する必要が生じるという点は共通しています。

逆に、ネガティブな変化がポジティブな結果につながるケースもあります。先のことがどうなるのか、正確には決してわかりません。それがたいていの人を怯えさせるのです。ですが、変化にうまく対処することはできます。自分のものの見方を調整し、「どんな状況でも乗り切れる」ことを知ればよいのです。この記事では、アナタの脳が変化に抵抗する理由と、それに対処するための方法をお教えしましょう。


そもそも「変化」とは?

ここではとりあえず、変化を次のように定義しましょう。「ある人の環境、状態、肉体的・精神的条件に調整が加えられ、もともとの枠組みには収まりきらない状況が生まれること」。この定義はつまり、そもそも人間には、周囲の世界の仕組みを定義したがる傾向があることを意味しています。周囲の世界や自分の身に、「世界はこうあるべき」というこれまでの認識とは矛盾するできごとが起きると、人はいつでも変化に直面するわけです。

日々の生活のなかで、変化はさまざまなかたちで訪れます。思春期をくぐり抜ける若者の痛みや、避けがたい健康問題と向き合う時の老人の痛みは、誰もが経験するものです。多くの人は、結婚し、学校を卒業し、何回か転職し、国じゅうを移動し、ひどいアクシデントに遭遇し、両親を見送り、それまでまったく知らなかった素敵な趣味に出合い、時には夢を実現したりもします。ここに挙げたさまざまな例の多くは、幸せや悲しみなど、標準的な感情と結び付けることができますが、Gil氏によれば、「良い」変化にせよ「悪い」変化にせよ、変化に対する私たちの反応に影響を与えるのは、できごとそのものだけではないそうです。

覚えておいてほしいのは、「ポジティブ」から「ネガティブ」に至るまでには無数の「中間」の段階があって、必ずしもすべての変化を、単純に良いとか悪いというようには分類できないということです。実際のところ、ある変化がポジティブからネガティブまでの物差しのどこにあたるのか、それを決める際には、ほかの心理学的要因(気性、気分、異文化適応力、ストレス耐性など)も絡んできます。


変化がストレスになるのはなぜ? それは脳が「いつも同じ」を望むから

理論的には、変化はシンプルなものであるはずです。道を歩いていて、例えば工事現場に行き当たったら、進路を変えなければいけません。あたりを見まわして回り道を探し、その道を通って目的地へ行くはずです。本来、この状況だけならストレスは生まれないはずですが、脳が持ついくつもの奇妙な癖のせいで、私たちはちょっと違った受け止め方をしてしまいます。以前にも通ったことがあるもともとの道は、まちがいなく目的地へ辿り着けます。ところが、障害物に行き当たると、それまで信じていた情報が突然使いものにならなくなってしまいます。


「別の道はどこへ続いている?」「どれくらい時間がかかる?」「危険ではない?」─── 人はわからないことを恐れるものです。そして変化というものは、わからないことをたくさん生み出します。そのため、人はしばしば無意識のうちに、なんとかして変化を避けようと試み、必要以上に人生を難しいものにしてしまうのです。

”世の中の仕組みやそれぞれの世界での自分の役割について、核となる考え方ができあがるまでには、生まれと育ちの両方が影響します。長期間にわたって、ある一定のかたちで世界や自己を経験すると、核となる考え方がかたちづくられ、そこから、人生とはどうあるべきかという枠組みができあがります。子どものころの経験は、もっとも強い影響力を持ち、その影響も長続きします。なぜなら、子ども時代の経験は、将来の経験と比較する「原型」となり、世界観や人生の枠組みをつくっていくうえで大きな役割を果たすからです。


私たちの脳は常に発達していますから、子どものころに経験したものほど、その後の神経回路の発達に影響を与える可能性は高くなります。良くも悪くも、子どもは総じて、大人よりも変化に応じた調整に長けています。それは、変化に出くわした時に克服すべき「手持ちの資産」が少ないからです(つまり、世界観や人生の枠組みがまだ発展途上だということです)。年をとり、脳の柔軟性が低くなっていくにつれて、それぞれの枠組みがより深く根付いていくせいで、変化に対処するのが難しくなっていくのです。”

(By Roger S. Gil)



時間と労力を無駄にした、と思いたくない

変化は、時に大きな喪失を伴います。そして私たちの脳は、失うことが大嫌いです。何かに感情的に没頭した時ほど、変化は難しくなります。なぜなら、それまでに費やした時間と労力を無駄にしたくないからです。だからこそ、内心では失敗するとわかっているプロジェクトであっても、あきらめるのに苦労してしまうのです。うまくいかなくなった恋愛をなかなか終わりにできないのも、すべてが無駄だったと思いたくないからです。実際には、時間は無駄になってなどいません。でも私たちの脳は、その時間を、必然的な結末に至るまでのプロセスと考えるのではなく、費やした時間全体をひとつの喪失と見なしたがります。


変化をプラスととらえる

変化に対処するのは、それほど難しいことではありません。脳の機能は変えられませんが、その奇妙な癖をうまく利用すれば良いのです。基本的に脳は、すでに知っていることや理解している情報を好み、知らないことを嫌います。脳がさまざまなかたちで多くの変化を経験していれば、「変化とはくぐり抜けられるもので、時にはプラスにもなる」と理解したうえで、変化に対処できるようになります。恐れる必要はないという証拠が脳内に情報として保存されていれば、変化もそれほど恐ろしいものではなくなるはずです。もちろん、その域に達するのは、口で言うほど簡単ではありませんが。


恐がっても良い。けれども、いつでも良い面を考えること

これをいつも心に留めておいて、かつ実行に移すのは、とても難しいことです。というのも、なんらかの変化のせいで精神的に苦しんでいる時には、楽観的に考えるなんてとうてい無理だ、と感じてしまうからです。しかし、それで良いのです。好きなだけ泣いて、モノを蹴とばして、わめいてください。そうしてから、新しい状況を、もっと楽しく、もっと過ごしやすいものにする方法を探しはじめれば良いのです。変化によって失われたものに固執していると、新しい状況が連れてきてくれるかもしれない良いものを楽しめなくなります。たとえ愛する人を失った場合であっても、自分の心の痛みに向き合ってそのプロセスをくぐりぬけ、前途にある新たな希望や幸せの可能性を教えてくれるような視野を探そうとすることはできます。それが、現在をベストなかたちで生きるということなのです。

定期的に練習し、数を充分にこなせば、変化への対処も恐ろしい重荷ではなくなるはずです。ギアの入れ替えは簡単ではありませんが、不可能なほど難しいというわけでもありません。練習を積めばそのうちに上達し、人生の曲がり角が訪れるたびにストレスの爆弾に襲われるようなことはなくなるでしょう。

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