世界に飛躍する日本産ワイン

カベルネ・ソーヴィニヨンでもメルローでもない、日本独自のブドウによるワイン造りが世界で脚光を浴び始めた。その名は「Koshu(甲州)」。2010年に欧州連合(EU)でブドウの品種として登録され、日本料理とマッチするその味わいの評価が高まっているためだ。世界に通用するワインを目指して努力を続けてきた甲州の生産者や、後押しする日本料理店関係者らの長年の奮闘が、今ようやく実を結びつつある。

東京・新宿駅から特急で約2時間。のどかな山あいにはブドウ畑が広がっている。「甲州」の故郷、山梨県甲州市勝沼町から「グレイスワイン」ブランドを送り出している中央葡萄酒(山梨県甲州市、三沢茂計社長)の畑。そのブドウがワインとなり英国やフランスなど本場に本格的に輸出されるようになったのは、ほんの2年前のことだ。


■世界で勝ち抜くワインを

きっかけは00年ごろに読んだ新聞記事だった。「日本のワインは世界一のワイン情報発信地、ロンドンで認められなければ、生き残れない」という先達の言葉が記されていた。「それまでは海外の有名レストランのワインリストに入れてもらうだけで満足していたが、世界で勝ち抜けるワインを造りたいと初めて思った」

当時も生産していたのは「甲州」を使ったワインだが、本場の欧州で販売するには大きな壁があった。EUでワインのラベルに表示できるブドウ品種は、フランス・パリの国際ブドウ・ワイン機構(OIV)が認めたものだけ。「甲州」は登録されていなかった。そのため「日本独自のブドウであることをアピールできず、味わいも正当に評価してもらいにくかった」。

そこで山梨県にも協力をあおぎ「甲州」を登録品種にするよう、09年からOIVにアピールを開始。同時に欧州各国で売り込みイベントを展開し、「甲州」=日本産ワインというイメージを定着させる努力を続けてきた。かいあって、同社は現地の輸入業者に認められ、10年に欧州への輸出を本格的に開始。取引先は着実に増えており、今後は中国やオーストラリア、シンガポールへの輸出拡大も狙う。

ブドウ自体の品質向上も進めている。「もともとの『甲州』には強い個性がなかった。醸造技術は自信があるが、ブドウそのものの質を高めることも、海外で認められるために重要」。

そこで山梨県北杜市にある12ヘクタールの自社農場で「甲州」などの栽培を開始。ワイン生産国として世界で認知されつつある南アフリカの大学教授らと研究を重ねた結果、「甲州」を使ったワインには「穏やかで繊細な味わい。控えめだが、りんとした爽やかさが加わってきた」。


■日本料理と相性ばっちり

それは世界で日本料理が人気を集める今、求められている味わいでもある。メルシャンが分析したところ、生産過程などの違いで日本産ワインは欧州産に比べ鉄分が少ないことがわかった。鉄分には魚介類の生臭さを強調する性質がある。そのため「魚などを多く使う日本料理には国産ワインの方があう」(メルシャン広報)というわけだ。世界の人々が日本料理を楽しむ時代。「日本酒だけでなく日本のワインを試したいという人も増えるだろう」

著名な料理人も日本料理に合う国産ワインに注目し始めている。たとえばミシュランの三つ星を獲得した日本料理店「小十(こじゅう)」(東京・銀座)。今も数多くの日本産ワインを取りそろえているが、6月の店舗リニューアル後には、日本産だけのワインリストも用意する予定だ。


店主の奥田透さんによると日本産ワインの魅力は欧米のワインにはない独特のキレだという。フランス料理は濃厚なソースで余韻が残る料理が多いが、日本料理は一品一品で味わいが完結するのが特徴。「だから日本料理にあわせるワインはキレが大切。日本産にはそれがある。同じ土地で採れる食材を使っているからではないか」と話す。

また、最近はイタリア料理やフランス料理に日本の懐石料理などの影響を受けたメニューが増えている。こうした料理にも日本産ワインの入り込む余地はありそうだ。


■米カリフォルニアでも

実際、日本料理に合うワインを生産する動きは、海外にも広がっている。ワイン産地の米カリフォルニア州ナパバレーでは一人の日本人醸造家が取り組んでいる。ワイン会社アーテッサの中村倫久さん(41)。醸造学で有名なカリフォルニア大学デービス校を通常4年のところを2年で卒業した俊才。「海外にきて、日本の食文化の豊かさに気がついた」と話す中村さんは、醸造家になって10年たったのを機に同州の日本人らに出資を募り、自分独自のワイン造りも開始。日本国内の料理店などから好評を得た。

ブドウは米国産だが、日本料理の素材を生かすため、産地や品種、収穫のタイミングをブドウ農家と細かく打ち合わせた。初めて作った白ワインは純米吟醸の日本酒をイメージ。赤は味噌やしょうゆに合わせることを意識したという。「今後も自分らしいワインをつくっていく」と目を輝かせる。


日本産ワインは国内メーカーの期待の星でもある。国税庁によると、11年の酒類全体の課税数量は前年比1.1%減。最も販売量が多いビールは3.6%減で市場の縮小傾向が鮮明だが、ワインに限っては9%増と需要が伸び続けている。輸出を含めてビジネスチャンスは大きい。

中東で生まれ、地中海沿岸に伝わって発展し、フランスやイタリア、さらには米国、豪州と世界で歴史を刻んできたワイン。その一角にようやく日本も加わる時がやってきた。国内で、世界で存在感を高める日本のワイン生産者たち。挑戦は始まったばかりだ。



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